阿波おどりの踊りは、大きく男踊り・女踊り・子ども踊りに分かれ、そこに楽器隊の「鳴り物(なりもの)」が加わります。この記事では、それぞれの見どころを順に紹介します。
男踊り — 腰を落として、足先を外へ
まず男踊りです。
観光庁のホームページによれば、阿波おどりの基本的な踊りのステップは男女で同じですが、二つの異なるスタイルがあります。そのうち男踊りは、膝と足を外側に向けて、低い姿勢をとるのが特徴です。衣装は法被(はっぴ)、つまりお祭りで着る短いコートを着るのが一般的です。
腰を落としたまま前へ進み続けるのは、見た目以上に体力を使います。手にはうちわや扇子を持つことが多く、そのさばき方も連ごとに違います。徳島県阿波踊り協会のホームページには、うきよ連の「巧みな団扇さばきの男踊り」、菊水連の「鐘と大太鼓に合わせて、2枚うちわで蝶のように舞い」といった各連自身の説明が並んでいます。
一部の連には、自由で動きの大きい男踊りがあります。ゑびす連は「自由奔放でコミカルな暴れ踊り」を、藝茶楽は連名物の奴凧(やっこだこ)踊り「黒龍奴」を挙げています。観光庁のホームページにも、「凧踊り」と呼ばれるフリースタイルの踊り方があり、一人の男性がアクロバティックな演出を披露する、と記されています。派手な見せ場が来たら、そこが連の看板芸だと思ってよいでしょう。
女踊り — 下駄の「前」だけで立ちます
女踊りは、まったく別の美しさです。
観光庁のホームページによれば、女踊りは通常、下駄(木製のサンダル)の前面でバランスを取り、手を高く持ち上げながら、しっかりとした形で踊ります。衣装はカラフルな着物と、半月形をした編みこみの笠、「編笠(あみがさ)」です。
ここは、ぜひ足元を見てください。下駄の前の部分だけで立ち、その状態で列を組んだまま進み続ける。つま先立ちで行進しているのに近い動きです。編笠を深くかぶるため踊り子の視界は狭く、それでも隊列が揃うのは、練習量と、鳴り物のリズムに全員が乗っているからです。
女踊りは「集団の美」で見せるパートでもあります。藝茶楽は「基本に忠実に、しなやかかつメリハリの効いた集団美」を、うずき連は「優雅でしなやかな差し足の女踊り」を、それぞれ自らの特徴として挙げています。
さらに、法被を着て踊る「女ハッピ踊り」を持つ連もあります。ゑびす連は「見る人をハッとさせる粋でキレのある女ハッピ踊り」、うきよ連は「一糸乱れぬ演出で観客を魅了する女ハッピ踊り」と紹介しています。
子ども踊りと、変わっていく踊り方
子どもの姿を見かけたら、それも祭りの歴史の一部です。
観光庁のホームページは、「子どもたちは1970年代から、阿波おどりに参加し、大人と一緒に踊りを披露してきました」と記しています。400年といわれる歴史のなかでは、比較的新しい要素です。
連によっては「ちびっこ踊り」として独立したパートを持ちます。阿波扇は男踊り・女踊り・法被踊り・ちびっこ踊りの4パート編成、菊水連は1991年(平成3年)にちびっこの女踊り「小菊ちゃん」、1998年(平成10年)にちびっこの男踊り「小菊くん」を結成した、と紹介しています。
踊り方の幅も広がっています。観光庁のホームページは「近年では、一部の女性は伝統的な男性のスタイルと衣装を取り入れています」と記しています。男踊り=男性、女踊り=女性という固定した区分ではなくなってきているということです。
鳴り物 — 五種類の音が重なっている
踊りに目を奪われがちですが、阿波おどりの体験を決めているのは音です。
徳島県のホームページは、鳴り物には「三味線をはじめ大太鼓、締太鼓、鉦、笛、鼓などが用いられます」と記しています。観光庁のホームページは、鳴り物には大太鼓・締太鼓・横笛・三味線・鉦などが含まれ、テンポを合わせる役割を担うとしています。
それぞれの位置づけを、確認できた範囲で整理します。
鉦(かね) — 手に持って打つ金属の打楽器です。観光庁のホームページは、鉦がテンポを合わせる役割を担うと記しています。音が高く鋭く、雑踏のなかでも一番よく通ります。
大太鼓(おおだいこ) — 抱えて打つ大きな太鼓で、音の土台をつくります。腹に響く低音です。
締太鼓(しめだいこ) — 大太鼓より小さく高い音の太鼓で、細かいリズムを刻みます。
篠笛(しのぶえ) — 横笛です。旋律を担当します。神戸大学の研究紀要に掲載された論文では、阿波おどりの囃子は篠笛・鉦・太鼓・三味線などで構成され、篠笛を演奏する人数は年々増えていると指摘されています。同じ論文はまた、阿波おどりの囃子は三味線が普及した近世に確立されたと考えられる、とも述べています。
三味線(しゃみせん) — 弦楽器です。歌(よしこの)と密接に結びついています。
連ごとの個性は、鳴り物にもっとも表れます。徳島県阿波踊り協会のホームページには、酔狂連の「三味線(ぞめき)巡礼唄」、うきよ連の演舞の途中で笛を奏でる名物「うきよ笛」、藝茶楽の「踊りの場面に合わせて巧みに打ち分け、多彩な音色を奏でる鳴り物」といった記述が並びます。菊水連にいたっては「ゆっくりとしたぞめきではなく、アップテンポの新しいリズムを作り結成しました」と、リズムそのものを結成理由に挙げています。
「ぞめき」「よしこの」と、掛け声
阿波おどりを語るうえで欠かせない言葉が二つあります。
ぞめきとは、徳島県のホームページによれば「阿波おどり特有の二拍子の軽快で陽気なリズム」のことです。観光庁のホームページも、鳴り物が「ダブルタイム(二拍子)で躍動感のある音楽」を提供する、と記しています。あの、体を前へ押し出してくるような二拍子が「ぞめき」です。
よしこのは、徳島県のホームページによれば「江戸時代後期に流行した民謡で、藍商人が京、大阪方面から阿波に持ち帰ったと言います」。つまり、阿波おどりの代表的な歌は、もともと徳島の外から来た流行歌だったということになります。1931年(昭和6年)には、芸者で歌手の多田小餘綾(1907〜2008年)が「阿波よしこの」をヒットさせ、阿波おどりの普及に貢献したと観光庁のホームページは記しています。
そしてこの「阿波よしこの」のなかの一節が、阿波おどりでもっとも有名な言葉です。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃ損々
観光庁のホームページは、この歌詞に阿波おどりの精神がもっともよく表れている、としています。
もうひとつ、「正調(せいちょう)」という言葉も覚えておくと役に立ちます。徳島県のホームページによれば「正しく受け継がれてきた(唄い方などの)調子」のことで、連の紹介文に頻繁に登場します。
掛け声は「合図」として聴く
踊っている最中、踊り子たちが声を掛け合います。
徳島県のホームページは、「ヤットサー」を「踊りの始まりや途中の掛声の一つ」と説明しています。「一つ」という書き方のとおり、掛け声は一種類ではなく、連によっても場面によっても変わります。
掛け声は「合図」として聴いてください。連の隊形が変わるとき、見せ場が始まるときに、たいてい声が入ります。声が上がったら、次の数十秒が見どころです。
ここを見ると、面白い
初めて見る方に、具体的な着眼点を五つ挙げておきます。
1. 鉦だけを聴いてみる。 全部の音を追うと混ざって聴こえますが、鉦だけに耳を集中すると、その連のテンポの骨格が分かります。連が変わるとテンポも変わるので、比べてみてください。
2. 女踊りの足元を見る。 下駄の前だけで立って進んでいることを確認すると、あの優雅さがどれほどの身体能力の上に成り立っているかが分かります。
3. 提灯の名前をメモして、連ごとの違いを比べる。 ゆったりした「正調」を守る連と、アップテンポの連では、同じ祭りとは思えないほど印象が違います。
4. 鳴り物の担当者を見る。 踊り子だけでなく、太鼓や笛の奏者に目を向けると、踊り子と呼吸を合わせている瞬間が見えることがあります。
5. 朝と昼の「流し」を狙う。 徳島県のホームページは「流し」を「朝から昼にかけて、三味線などの鳴り物だけで町筋を流して歩くこと」と説明しています。夜の演舞場とはまったく違う、静かな阿波おどりです。夜だけがすべてではありません。